デンマークの品格溢れる美味しい名画『バベットの晩餐会』
こんにちは、キーノです。
今回の作品は『バベットの晩餐会』。
ガブリエル・アクセル監督、1987年・デンマーク・102分
アカデミー賞 最優秀外国語映画賞
本作はデンマークが生み出した名画の中の名画。
信仰心に慎ましく生きる姉妹、動く絵画のような美しい景色、心を解きほぐす晩餐会。
優しさと品格と美味しい料理に彩られた素晴らしい作品です。
あらすじ
19世紀のユトランド半島、牧師の老父のもと片田舎で清貧な暮らしをする美しい姉妹がいた。
長い年月が過ぎ、牧師である父も亡くなると、村人の信仰心は次第に薄れつつあった。
その中、年老いた姉妹のもとにフランスから亡命してきたバベット夫人が家政婦としてやって来る。
14年の歳月が経ったある日、バベット夫人に1万フランの宝くじが当たった。
夫人は来たる晩餐会のために手料理を振る舞いたいと老姉妹に申し出る。
ユーモラスな老境の危機
...というあらすじ後、バベット夫人にはある秘密があった。
実は彼女は、フランスの有名レストランで女料理長をつとめていた凄腕シェフだったのだ。
姉妹に仕えてから14年もの間沈黙を守り続けていたが、宝くじの大当たりをきっかけについに口火を切る。
姉妹の亡き父である牧師の生誕100年を祝う晩餐会で手料理を作りたい。
その日から数日間、晩餐会のための準備が始まった。
宝くじのお金を使って、フランスから大量の食材を取り寄せる。
その中には生きたウミガメやウズラ、牛の頭などが山のように積まれていた。
これまでパンや粥といった質素な食生活しか送ってこなかった姉妹は、驚きと恐怖を隠せない。
夜中にはウミガメやヤギが炎に包まれる悪夢まで見てしまう始末。
晩餐会に招かれる村人たちもビビってしまい、「料理には一切気を払わないようにしよう」と口約束を交わす。
平穏な老境に突如訪れた危機ーウミガメを食べなければならない危機ーが優しいユーモアとともに描かれる。
晩餐会を怖気付きながら待つ村人、対して調理場で淡々と準備を進めるバベット夫人。
このコントラストには思わず口元もほころぶというもの。
食べること=腹の内を見せること
長い月日は人の心を変えてしまう。
牧師が亡くなって以来、村人たちの信仰心は次第に薄れつつあり、顔を合わせば口論が絶えなくなっていた。
その最中、ついにやってきた晩餐会。
「準備が整った」との合図で、おろおろとテーブルにつく村人たち。
中にはかつて姉妹の1人に求婚した将軍も招かれていた。
最初に給仕されたのはウミガメのスープだ。
将軍は慣れた様子でスープに舌鼓を打つ。村人たちも将軍の食べ方を真似てスープを恐る恐る口に運ぶ。
...あれ、美味くない⁈
そんな心の声が聞こえてくるような表情た。
ウミガメを皮切りに、バベット夫人のフルコースは勢いを増す。
キャビア添えのクラッカー、ウズラのパイ包み焼き、蜂蜜をたっぷりとたらした焼きたてのケーキに高級ワインの数々。
最初は不安気だった村人たちもスプーンを繰る手が止まらなくなる。
口論ばかりだった会話も腹を割った友人同士のものへと自然に戻っている。
食べることは互いの腹の内を見せること、そんなメッセージがごく静かなタッチで伝わってくる。
食後のコーヒーを嗜んだ後、村人たちは星の輝く外に出て、井戸を囲って歌をうたい、幸せに包まれ帰路に着く。
大仕事を終えたバベット夫人は、調理室で股開き気味に腰掛け、コーヒーで一服する。
その姿はまさに女料理長そのものだ。
本作は人に幸せを与える喜びが大きなテーマとなっていました。
「人に与えたものだけが天国に持っていけるもの」というセリフも登場します。
料理人として芸術家として、人に幸せを提供するという最高の仕事を終えたバベット夫人。
その喜び・達成感・自分の存在意義、色んな感情があの一服の姿にすべて詰まっていました。
本当に素晴らしい、美味しい名シーンの数々にお腹もいっぱいです。