きよしこの夜の純愛『シベールの日曜日』
Merry Christmas! キーノです。
今年もまた、きよしこの夜がやってきました。
子どもの頃は、一年で最も待ち遠しい日でしたが、今となってはすっかり疎遠に…
まあ、映画が観れるから良しとしよう。
さて、今回の作品はクリスマスにふさわしい名画『シベールの日曜日』です。
セルジュ・ブールギニョン監督、1962年・フランス・111分
マボロシの中の純愛
記憶を失って見る世界はどんな景色だろう?
かつての友人は見ず知らずの人に、慣れ親しんだ街は異国の地に変わる。どこにいても地に足つかず、ガラス窓で隔てられているかのように世界が遠い。
主人公の青年ピエールは、まさにその状態にある。
戦争で記憶を失い、得体の知れないトラウマがそこから突き上げてくる。恋人も仲間もいるが、彼らとはどこか住む世界がちがう。
迷子のピエールは、パリ近郊の町ヴィル・ダヴレーをさまよい歩く。
そんな折、彼は1人の少女に出会う。
父親から捨てられるように寄宿学校にあずけられた彼女。ピエールは、少女に自分と同じ何かを感じた。
孤独な魂同士は、自然と惹かれ合う運命にある。
ピエールは、日曜日ごとに少女を連れ出し、湖のほとりで2人だけの時間を過ごす。
現実に居場所のない2つの魂が出会った時、そこが1つの家になる。とても好きな話だ。
湖のほとり、小石が跳ね落ち、水の波紋がゆっくりと広がる。水面に映る2人の姿が揺らめいていく。
「あそこを私たちの家にしましょう」少女はつぶやく。
一緒にいる時だけ、心は満たされた。ピエールはトラウマを、シベールは孤独を忘れられた。
しかし、2人の世界は絶えず移りゆく水のように儚い。
彼らの純愛は、あくまでもマボロシの中にある。
クリスマスの夜、ツリーに引っかけられた小さな包み。少女からピエールへの贈り物だ。
中には折りたたまれた紙片、広げると「シベール」の文字。それまで本名を明かさなかった少女の名前が書かれていた。
ピエールは、お返しに、教会の上によじ登り、風見鶏の置物を盗む。
彼はもう不安も恐怖も感じていなかった。
しかし、マボロシが現実世界に腰を落ち着けることはない。2人の魔法の時間はついに解ける。
白煙のようにたち消えた夢のあとに、そこはかとない美しさが感じられた。
僕は、冬になると必ず『シベールの日曜日』と『ぼくのエリ』だけは観返します。
特に本作は、クリスマスに観たい最良の名作ではないでしょうか。