#1『黒澤明』+勝手にベストテン
遅ればせながら、明けましておめでとうございます、キーノです。
年末年始とブログに一切手をつけていませんでしたが、もう少しだけ細々と続けたいと思います。
いつも拙文をガマンして読んでくださる皆さん、本当にありがとうございます!
さて今回は、世界の黒澤明監督について語りたい!という回です。
昨年末にクロサワ作品を一から順に観ていたら、完全にハマってしまいました。
僕がよくやる映画鑑賞法なのですが、誰か1人監督を選んで、その監督に関する参考図書を1冊購入し、年代順に全作品を観ていきます。
本で生涯や映画術を知り、作品を観てそれを体感することで、監督とちょっと仲良くなれた感じがして、とても楽しいです。
今回選んだ参考図書は、都筑政昭さんの『黒澤明 全作品と全生涯』。
これがかなりの名著で、黒澤監督の出自から、年代ごとの映画術の変化、おもしろエピソード、撮影秘話、そして全作品の評論と、僕のようなクロサワ入門者には最高の本でした。
黒澤監督本人の言葉の引用も多く(自伝やインタビュー集から)、これ1冊あれば、基本的なことは網羅できます。
その中で、初めて知ったおもしろエピソードをいくつか…
黒澤明エピソード
集中すると、脚本を1日8〜9時間ぶっ続けで執筆し、終わったら肩から背中が硬直していた。
一本撮影が終わると、ほぼ毎回入院していた。命がけで撮影をした後、廃人のようになって、髪の毛がごっそり抜け落ち、急激に老け込んだとか…
トレードマークのサングラスは『用心棒』から。
尊敬していたジョン・フォードが、撮影で目を傷めてサングラスをかけるようになったことを聞いて真似した。
実際に、黒澤監督も撮影で目を傷めていた。
当時、日本映画のデビュー作は、内務省の技能審査をパスしない限り、監督としての証明書が交付されなかった。
処女作『姿三四郎』は、審査員にありとあらゆる難クセをつけられ、黒澤青年はブチギレ寸前に。
その時、1人の試験官が立ち上がり、「百点満点として『姿三四郎』は百二十点だ!黒澤君、おめでとう!」と言った。
その人物が、小津安二郎だった。
新人俳優のオーディション会場に呼ばれた黒澤監督。ドアを開けて中をのぞいてみると、若い男が荒れ狂っていた。
男は、審査員のヒンシュクを買い落選。しかし、そのエネルギーに圧倒された黒澤監督は「待ってくれ!」と一言。責任を持つ形で及第にしてもらう。
その男こそ、三船敏郎だった。
これはほんの一部で、まだまだ山のように面白い裏話が詰まっています。この本は心からおすすめです。
ここからは、黒澤明監督が手がけた全30作品のうち、僕の好きなものを10本選んで、勝手にランキングしました。
勝手にベストテン
第10位『悪い奴ほどよく眠る』(1960)
汚職まみれの重役たちに父を殺され、復讐するミフネ(役名は西)。その手口の鮮やかさ、サスペンスの緊張感!
そして、復讐のために結婚した重役の娘に本気で恋をしてしまい…
あまり期待せずに観たら、予想をはるかに超えて面白かったので10位に。
第9位『天国と地獄』 (1963)
前に「午前10時の映画祭」で鑑賞済みでしたが、本書にある撮影裏話を知って、面白さ5割り増し。
特急の列車を貸し切り、橋を通過する数十秒の間に、カメラを何台も用意して、一発勝負の撮影。知ってから観るとスゴいです。
モノクロ映画ですが、ワンシーンだけ赤色が挿し込まれます。これはのちに、スピルバーグ監督が『シンドラーのリスト』でオマージュした箇所。
第8位『蜘蛛巣城』(1957)
逃げ惑うミフネに襲いかかる無数の矢はすべてホンモノ!
「撮影していて、初めて死ぬかと思った」とはミフネ本人の言。
城に向かって「森が移動する」シーンも圧巻。これは面白すぎる。
第7位『七人の侍』(1954)
「うな丼にカツレツ乗っけて、その上にハンバーグ乗せて、さらにカレーかけるみたいな映画を作ろう」
その宣言通り、クロサワ監督が作り上げたカロリー過剰な超娯楽作。しかし、そのカロリーは体に良いのだ!
雨の中の決闘シーンは、死人が出そうなほどの地獄撮影だったとか。
第6位『椿三十郎』(1962)
ミフネと仲代達矢の一騎打ちに呼吸するのを忘れます。
居合切り一閃で決まる勝敗、胸から滝のように噴き出す血しぶきは、酸素ボンベを忍ばせていたそう。ほぉ〜、勉強になる。
第5位『生きる』(1952)
妻に先立たれ、一人息子とも心が通わず、死んだように役場勤めをする男。
ガンの宣告。失意のどん底、そして生への転換。
人間、いくつになっても人生にカムバックできる!
消えゆく命のともしび、目的をやり遂げた男の清々しい顔、そして唄う「生命短し、恋せよ乙女」…これはハンカチが必須。
第4位『デルス・ウザーラ』(1975)
ハリウッドは、黒澤監督の完璧主義についていけなかった。しかし、ソ連は「好きに撮ってくれ」と黒澤監督を迎え入れた。
そして出来上がった傑作が『デルス・ウザーラ』だ。
文明から離れ、厳しい自然の中で一人生きる老人デルス。そのたくましさ、優しさ、知恵の豊かさ。
こういう人に僕はなりたい。
第3位『酔いどれ天使』(1948)
黒澤作品のツインタワーである三船敏郎と志村喬の伝説コンビが誕生した記念碑的作品。
余命いくばくもないヤクザの三船とヤクザを毛嫌いしつつも見捨てられないアル中ドクターの志村。
2人が同じ画に映るだけで、すべてが名シーンになったかのよう。好みの作品としては、本作が一番タイプかな。
第2位『隠し砦の三悪人』(1958)
エンターテインメントとして心踊るしかないシーンのつるべ打ち。こういうスーパー面白い作品は、何も言わず黙ってみるより他にない。
R2-D2とC3-POの元ネタにもなった、おとぼけコンビ太平と又七が愛らしい。ミフネと藤田進の長い長い一騎打ちも素晴らしい。
スピルバーグ監督が、「クロサワの弟子」と自称する理由がよく分かる大傑作。
第1位『赤ひげ』(1965)
「人間を押し、その肉づきを獲得せよ」をモットーにした黒澤監督。そのヒューマニズムが極致に達した作品です。
人の死の瞬間をここまで荘厳に魅せられる作品は、滅多にお目にかかれない。劇中、少なくとも3カ所は毎回泣いてしまう。
クロサワ・ミフネの黄金コンビ最後の作品であり、全30作品の頂点にある映画だと僕は思います。