キネマ・ジャングル

国・年代・ジャンルを問わず、心に響いた作品について呟いてみる映画ブログです。

ピクサー流の人生哲学『トイ・ストーリー4』

こんにちは、キーノです。

 

今回の作品は『トイ・ストーリー4』

ジョシュ・クーリー監督、2019年・アメリカ・100分

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Credit:Amazon.co.jp

『トイ・ストーリー』シリーズに関しては、思い入れが他作品とは違います。

 

第1作の日本公開が1996年。

 

僕は当時2歳だったので、劇場では観てないものの、親が買ってくれたVHSをテープが擦り切れるほど観返しました。

 

記憶に残っている限りでは、人生で初めて観た映画。そして、人生の最後に観たい映画でもあります。

 

 

それから、誕生日には毎年、劇中に出てくるおもちゃをプレゼントに頼みました。それこそ、ウッディやバズの足裏に、自分の名前を書いたりしたものです。

 

どのシリーズも僕にとっては完璧な作品だし、ラストと思われた3では、枯れるくらい泣きました。

 

それほど思い入れが強い作品ですが、同じような人は世界中に山ほどいるのでしょう。

 

 

そして、第3作から9年…予期せぬ『トイ・ストーリー4』の公開。

 

ウッディたちの近況が知れるだけで嬉しかったので、何の不安もなく、期待と喜びを胸に劇場に駆けつけました。

 

そこには、ある意味で「オモチャの話」を越えたトイ・ストーリーがあったのです。

 

※以下、完全にネタバレしています。

 

 

「オモチャ」は常に本質を持つ

僕が本作からハッキリと感じ取ったのは、実存の哲学だ。

 

それも特に、サルトルの実存哲学がすぐに頭に浮かんだ。大学時代は哲学科だったので、やや懐かしさも感じる。

 

 

持ち主がアンディからボニーに変わり、持ち主の主役ではなくなったウッディ。彼の扱いは、今までのシリーズとは180度違う。

 

ボニーには遊ばれないし、ボニーパパには踏んづけられる。ウッディは、遊ばれないおもちゃとして、迷子になっていた。

 

 

オモチャには、「子どもに遊んでもらう」というただ一つの使命がある。つまり、始まりから「子どもの遊び友達」という本質にもとづいて作られる。

 

サルトル言うところの「本質が実存に先立つ」存在だ。

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Credit:youtube

物や道具はすべてこれに沿っている。椅子もハサミも鉛筆も、すべて本質ありきで作られる。

 

本作でこれに当たる存在が、まさしく先割れスプーンのフォーキーだ。

 

ボニーがゴミから作り上げた存在フォーキー。ウッディは、カバンから赤子を取り出すかのように彼をバズたちに紹介する。

 

まさしく、フォーキーは、本質を持ったオモチャとして産声をあげたばかりなのだ。

 

本質を越境しようとするウッディ

ここでウッディに重大な変化が生じる。

 

彼は「内なる心の声」に動揺を見せ始める。これが実存の芽生えを示すキーワードとなる。

 

ウッディに対して、バズも内なる声に耳を傾けるが、彼が聞くのは「ボイスボックス」の声だ。

 

本作でのボイスボックスは、「オモチャの本質」を示すシンボルとなっている。

 

ボイスボックスは、オモチャとしての声であり、バズ自身の内なる声ではない。

 

バズは、ウッディとは対照的に、本質が実存に先立つ存在として、オモチャの領域にとどまり続ける。

 

第1作の時のバズに戻ったように感じるのは、これを強調したいからだ。

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Credit:youtube

一方のウッディもボイスボックスを持っているが、彼が聞くのはその声ではなく、ウッディ自身の不安や迷い、焦燥の声だ。

 

ウッディは、すでにオモチャの域を越え始めている。

 

言い換えれば、「実存が本質に先立つ」存在に変化し始めている。

 

実存が本質に先立つ存在とは、まさに私たち人間だ。

 

人間は、道具のように明確な目的(本質)を持って、この世に生まれてくるのではない。

 

人生の選択肢は無数にある。

 

どう生きるかは自分で選ぶことができる。これこそが「自由」の真意だ。

 

無限の彼方へ…

もう1人の興味深い存在は、アンティークショップのギャビーギャビーだろう。

 

彼女もボイスボックス型のオモチャだが、ギャビーギャビーのそれは壊れている。要するに、オモチャとしての本質が欠如している。

 

ギャビーギャビーは、「自分は本質を欠いているから、子どもには遊んでもらえない」と思い込んでいるのだ。

 

だからこそ、もう一度カムバックするために、喉から手が出るほどウッディのボイスボックスが欲しい。

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Credit:youtube

しかし、ここは需要と供給が一致している。

 

ウッディは、オモチャとしての存在を越え始めているのだから、ボイスボックスはもう必要ない。

 

そして、ギャビーギャビーは、ウッディから本質を譲り受け、第二のオモチャ人生を歩み始める。

 

 

物語のラスト、実存に目覚めたウッディは、オモチャであるバズたちと決別し、完全にアマゾネス化したボーのもとに残る。

 

オモチャを越えた彼らは、自らの意志で人生を選択できる自由な存在となったのだ。

 

 

その一方で、自由は監獄でもある。

 

「子どもと遊ぶ」という確固たる本質(使命)を持っていれば、人生に迷いはないが、選択肢が無数にある自由は、裏を返せば不自由とも言える。

 

 

「無限の彼方へ、さあ行くぞ」

 

 

僕はこのラストのセリフが、自由の大海原へと旅立つウッディの意志表明、そしてバズからの花向けの言葉に聞こえてならない。

 

本作は「トイ・ストーリー」という枠組みをはるかに越え出て、自由を獲得した1人の人間(生命体?)のストーリーとなっていた。

 

 

  

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