1927年、映画はすでに完成していた。『サンライズ』
こんにちは、キーノです。
今回は『サンライズ』。
F・W・ムルナウ監督、1927年のアメリカ映画です。(監督はドイツの方)
あらすじ
田舎に暮らす若い夫婦。かつては仲が良かった。
しかし夫が都会から来た女に誘惑され、妻を殺すようそそのかされる。
ボートに乗り妻を溺死させようとするが寸手のところで思いとどまる。
夫の思いに絶望した妻はボートから降り、通りがかった電車に飛び乗る。
夫は妻を追いかけるが…
映画=モーション・ピクチャー、映像で語るということ。
『サンライズ』こそ、その極致にあると思います。
こんな映画がほぼ100年前に完成していたとは。
各シーンを想い出すだけで鳥肌を禁じえません。
※今回は感動有り余って好き勝手書いております。ネタバレしかしてません。
悪女のささやき
月に照らされた怪しい夜、食事の仕度をする若夫婦に会話はない。
そこに都会から来た女が家の前で口笛を吹く。男を呼ぶ合図だ。
男を呼び寄せた女は「農場を売って一緒に街に出て」と誘う。草むらに寝そべる2人。
女が街の魅力について語り出す。すると目の前に煌びやかな街のイマージュが突然広がった。
酒、ダンス、パーティーが月夜に浮かぶ。何という映画的イメージ!
「妻はどうするんだ?」男は言う。女はささやく。
「溺れ死にさせれば?」
するとこの手書き調のインタータイトル「Couldn't she get drowned?」がドローンと下に溶けていく。こんなの観たことない!
当然男は怒り狂う。女を絞め殺そうとする。しかし女は無理やり男の唇を奪い、押し倒し、抑え込む。男はされるがまま。何たる悪女!
この悪女の匂いに満ち満ちた月夜のシーンにまず度肝を抜かれる。
妻の絶望
その後、夫の脳裏にはボートから妻を突き落とす悪夢のイメージが付いて離れない。
「久しぶりに2人で出かけよう」そう誘われた妻は、夫が仲を取り戻そうとしてくれていると大喜び。
妻を見て逡巡する夫。思いとどまるか?
しかしそこに悪女の幻影が夫の身体に寄り添うようにして現れる。次第に画面は女のイメージで埋め尽くされる。
この男は心の底まで女に支配されているのだ。
ボートに乗り込む2人。嬉々とする妻と不気味に黙したままの夫。
川の真ん中で男は突然ボートを止めた。どうしたの?と妻。
男は悪魔の顔をして妻の方へにじり寄る。妻はすべてを悟った。
夫は仲を取り戻そうとしていたのではなく、なんと自分を殺そうとしていたのだ。
妻は絶望して泣き崩れた。夫はその姿を見てハッと我に帰る。
ここまでのシークエンスで画面に釘付け、瞬きの概念を忘れる。
夫の絶望、そして改心
逃げた妻を追って2人は街にたどり着く。「許してくれ、怖がらないでくれ」そう夫は懇願するが、妻は心の底から怯えきっている。
当てもなく彷徨う2人は結婚式をしている教会にたどり着いた。吸い込まれるように中に入る2人。
祭壇では神父による誓いの儀が執り行われている。2人は後ろの方の席に腰掛けた。
黙して見守る夫。すると神父が新郎に向かってこう語りかけた。
あらゆる危険から彼女を守りなさい
途端に夫の目から涙が溢れ出た。
かつては自分もそう誓ったはずなのに、真逆のことをしようとしていたのだ。
夫は絶望し泣き崩れた。
妻はそのすべてを感じ取り、理解した。夫を優しく抱きしめ、2人は仲を取り戻す。
このシーンで僕はもうボロボロ泣き。ここで終わっていても十分傑作だったでしょう。
しかし『サンライズ』はここからまたギアを上げてくるのです。
サンライズ、陽はまた昇る
寄りを戻した2人は新婚のように街でデートをする。
夜になり家路に着くためボートに乗り込む。安心して眠り込んでしまう妻。
突然、激しい嵐が巻き起こった。空には稲妻、風が吹き荒れ、川の水が猛り狂う。
沈没を悟った夫は浮き草を妻にくくりつける。
ついに荒れ狂う川がボートごと2人を飲み込んだ。
意識を取り戻した夫は側に妻がいないことに気づく。村人総出で妻を探すが見つからない。
「妻は死んだ…」そう思った夫は悲しみに暮れる。
そのとき村人の叫ぶ声がした。何とずぶ濡れの妻が家に運び込まれてきたのだ。
ベッドで眠る妻に寄り添う夫。段々と外に陽が昇り始める。
ゆっくりと目を覚ます妻。2人は静かに口づけをかわす。そこに陽の昇りがオーバーラップする。
サンライズ、2人の愛が戻った瞬間だった。…完璧。
サイレントなのでもちろんセリフはありません。しかし何故か、本作を想い返す時は決まって2人の声が聞こえます。
妖艶、不穏、倦怠、絶望、改心、愛情、そのすべてを映像で語り切る。映像の声が確かに聞こえてくる。
これが映画だ!
そして1927年、映画はすでに完成していたと思わされるのです。