共感覚アニメーションの傑作『ファンタジア』
こんにちは、キーノです。
今回の映画は『ファンタジア』。
ベン・シャープスティーン監督、ウォルト・ディズニー制作、1940年・117分
今さら何かを語るにはあまりにも有名で偉大すぎるディズニー永遠の名作ですが、改めて観てやっぱり心打ち震えるものがありました。
鑑賞は小学生のときに一度観て以来、今回が2度目。
僕の学校では昼休みに入ると、ほとんどが一斉に運動場に飛び出して行きましたが、薄暗い空き教室でひっそりとアニメを流しているテレビがありました。
いつもほんの数人しか来ませんが、一台のオンボロTVを囲んで『ピーター・パン』や『トムとジェリー』なんかをよく観たものです。
そこで出会ったのが『ファンタジア』でした。
昼休憩中のことなので、ほんの数十分しか観ていませんが妙に記憶に残っています。
それから十数年ぶりに全編通して鑑賞してみて驚嘆。
そこにはアニメーションのシンプルな面白さだけでなく、音の視覚化や音楽の手ざわりが見事に表現されていました。
共感覚的アニメーション
『ファンタジア』は一編のストーリーでなく、8曲のクラシック音楽に乗せて小さな物語が語られるという形式。
冒頭、ブルーライトで薄暗く照らされた舞台にフィラデルフィア管弦楽団、ついで指揮者のレオポルド・ストコフスキーが入場する。
逆光で楽団のメンバーと指揮者は、皆シルエット状に映っています。
この演出によって、実写ともアニメともつかない不思議な空間が作り出されています。
ちなみに指揮者のストコフスキー氏は『オーケストラの少女』というミュージカル映画にも出演していますね。
「これは芸術家の想像の物語」というようなナレーションが入った後、バッハの「トッカータとフーガ ニ短調」の演奏が始まる。
すると実写シルエットが徐々に遠のいてアニメに変わり、バイオリンの弓だけが動き出す。
緩やかな音の際は雲のイメージがふわ〜と現れ、激しい音になると稲妻がバチッと弾けるようなイメージが、ピーンと弦を弾くような音で水の波紋がスーと広がる。
このようにして音を視覚的に表現します。聞こえるものが目に見える、つまり共感覚的イメージがここで生じているのです。
共感覚は音に色が見えたり、色に味がするというように、複数の感覚が交差する不思議な知覚現象。
それを『ファンタジア』はアニメーションで表現しているというわけです。
一曲終わると実写の舞台に画面が戻るという作りなので、演奏中(アニメーション中)も常に現実の楽団が目の前にいるという構造を観客の意識下に残します。
つまり観る側は座席にいながら、音楽の景色が見えるという奇跡の体験が出来るのです。ディズニーおそるべしですね。
音楽がストーリーを持つ時
二曲目になるとさらに共感覚的イメージは具体化し始めます。
チャイコフスキーの「くるみ割り人形」に乗せて、美しい夜空の中を妖精たちが優雅に飛び交う。
妖精たちが通ったあとには無数の光り粉がシャラシャラと落ちていく。
この光り粉はティンカーベルが通ったあとやシンデレラの魔女が杖を振ったあとに登場するのと同じもので、ディズニー・クラシックには欠かせない美しさです。
その後、演奏のイメージはさらに明瞭化していき、三曲目の「魔法使いの弟子」でハッキリとしたストーリーに変貌します。
音楽が単純な個的イメージの表現を越えて、ひとつの起承転結になる瞬間です。
ちなみに、この三曲目で登場する魔法使いミッキーの師匠イエン・シッドの正体はディズニーなんだとか。(Disneyを反対から読むとYen Sid)
その後の演目もさらにさらに凄みを増しますが、あまり長くなりそうなのでやめましょう。
このあとは、3曲目のストーリーが4曲目で地球創生のヒストリーになり、5曲目で神話になり、最後には光と闇の対決にまで発展します。
すべての物語は演奏中の音楽と完璧にシンクロしていて、鑑賞中は天にも昇る気分。とくに最後のアヴェ・マリアは死ぬ前に是非とも見たい景色でした。
とにかく全編通して素晴らしい、オールタイムベスト級の作品です。
演目リスト
①「トッカータとフーガ ニ短調」J.S.バッハ
②「くるみ割り人形」チャイコフスキー
③「魔法使いの弟子」デュカス
④「春の祭典」ストラヴィンスキー
インターミッション「サウンドトラックの踊り」
⑤「田園交響楽」ベートーベン
⑥「時の踊り」ポンキエッリ
⑦「はげ山の一夜」ムソルグスキー&「アヴェ・マリア」シューベルト
特典「月の光」ドビュッシー