キネマ・ジャングル

国・年代・ジャンルを問わず、心に響いた作品について呟いてみる映画ブログです。

狂気の船が山を越える『フィツカラルド』

こんにちは、キーノです。

 

今回の作品は『フィツカラルド』

ヴェルナー・ヘルツォーク監督・1982年・西ドイツ映画(157分)、第35回カンヌ国際映画祭 監督賞受賞作品

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Credit:Amazon.co.jp

「狂気の船が山を越える」と書きましたが、これは比喩でも何でもなく、文字通り巨船が山を越境する常軌を逸したシーンが登場します。

 

南米アマゾンでの過酷すぎる撮影ゆえ、度重なる主演の交代とキャスト陣からの苦情や降板が続発したそう。

 

それでもヘルツォーク監督が狂気と執念で撮り上げた本作はまさにマッドマキシムな傑作と言えます。

 

あらすじ

19世紀末のブラジル、世界的オペラ歌手カルーソーの舞台を観たフィツジェラルドはアマゾンの奥地にオペラハウスを建設する計画を立てる。

彼は目的実現のため、密林を開拓してゴム園を作り、莫大な資金を集めることに。

古びた船を買い、乗組員を集め、ジャングルの奥地へと進むが、目的の土地は激しい急流に阻まれていた。

彼は急流を避けるため、船の進路を山へと向けるのだが。

 

アマゾンを飼い慣らす男キンスキー

主人公のフィツジェラルド(通称フィツカラルド)を演じるのは、ヘルツォーク作品の顔とも言える怪優クラウス・キンスキー氏。

 

爛々と不気味に光る瞳が印象的で、あの美神ナスターシャ・キンスキーの実父でもありますね。

 

当初の主役はジャック・ニコルソンが予定されていたそうですが、体調を崩し降板。次の主演も、そして他のキャスト陣もアマゾンの過酷な環境で赤痢に冒され現場を去って行きます。

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Credit:youtube

そんな中、白羽の矢が立ったキンスキーはさすがと言うのか、アマゾンを手なずけている風格さえ纏っています。

 

以前に同監督と組んだ『アギーレ/神の怒り』でも過酷な密林撮影をこなしていました。実際、泥濁とした川を船で進む様は本作とあまりにも酷似しています。

 

もはやキンスキーは赤痢に冒されない身体を手に入れてしまったのでしょうか。

 

というより、なぜ最初からキンスキー主演にしなかったのかが気になります。

 

それほどアマゾンの狂気的雰囲気にマッチする怪優なのです。

 

「π」の字横断作戦

話を映画に戻しまして…

 

フィツカラルドはボロ船を買い込み、十数人の地元乗組員を従えて、アマゾンの奥地へと出帆する。

 

現地人から「呪われた場所」と恐れられているアマゾンは不気味なほど静寂に包まれている。

 

緊張と恐怖に耐えられなくなった乗組員たちは平静を失い次々と船を降り、わずか4人にまで激減する。

 

それでも船を止めないフィツカラルド(K・キンスキー)の姿は、キャスト陣の降板が続いても撮影を辞めなかったヘルツォーク監督の狂気や執念が憑依したかのよう。

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Credit:youtube

その後、船を進ませる一行の前に現れたのは猛り狂うアマゾンの急流だった。

 

ここをクリアしないことには、目的地にたどり着けない。

 

その状況をフィツカラルドは「π」の字マップで巧みに説明してくれる。

 

現在地点は「π」の左辺側の真ん中あたり。目的地に至るには船を上へと進め、右辺に入らなければならない。

 

ところがこの水平方向に伸びる上辺が激しい急流で阻まれている。ここを進めば川に飲み込まれてしまうため、この選択肢は却下。

 

そこでフィツカラルドは左辺の真ん中から直接右側の山をぶち抜いて船を進め、右辺の川に出るというトンデモ作戦に打って出る。

 

ここが本作の白眉。

 

新たに従えた大勢の現地民を使役し、荒波のごとく密林を伐採し、巨木を薙ぎ倒して、滑車を作り船を運ばせる。

 

CGなどのトリックは一切なし、ここはもはや狂気のドキュメンタリーへと昇華しています。

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Credit:youtube

過酷な作業を継続すること7ヶ月、ついに巨船は山を越え、密林を貫き、川へとゆっくり入水。その瞬間はえもいわれぬ絶頂感に達する。

 

目的を果たし、船上でオペラを上演させたフィツカラルドに人々は喝采を送る。彼はその様子を誰もいない船の端っこから満足気な表情でひっそりと見つめる。

 

「どうだ、私はやってやったぞ」

 

そんなフィツカラルドの笑みは、ヘルツォーク監督自身の笑みでもあるのでしょう。傑作です。

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Credit:youtube
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