孤高の天才アゴスティの一級品『カーネーションの卵』
こんにちは、キーノです。
今回の作品は『カーネーションの卵』。
シルヴァーノ・アゴスティ監督・脚本・撮影・編集
1991年・イタリア映画・103分
「シルヴァーノ・アゴスティ」という芸術家の国内認知度はかなり低い方だと思います。
それもそのはず、監督作品はレンタル店には置かれてないですし、鑑賞するにはDVDを入手するしかありません。
しかしアゴスティ作品は、世界中の名だたる巨匠たちから絶大な支持を受けているのです。
例えば…
『カーネーションの卵』に終わりがあったのが残念でね…僕はもっとずっと続いてほしかったんだよ。ーベルナルド・ベルトルッチ
シルヴァーノ、すごいぞ、君は我らが映画界の人間大砲だ。ーエットーレ・スコラ
君の映画館で『カーネーションの卵』を観たよ。すばらしかった。あんまりすばらしかったから、君の本を全部買ってしまった。ーフェデリコ・フェリーニ
これからも映画を撮り続けることを約束してくれ。でないとこの手を離さない。ーイングマール・ベルイマン
これほどのビッグネームから絶賛されているにも関わらず、アゴスティの認知度が低いのは何故でしょうか。
孤高の芸術家としてのスタンス
1938年、イタリア・プレーシャで生を受けたアゴスティ氏の活動域は驚くほど多岐に渡ります。
詩人、小説家、俳優、エッセイスト、映画監督etc
才能の宝庫みたいな方ですが、さらに驚きなのは芸術家としてのスタンスです。
最初の基本情報で気づいた方もいられるでしょうが、アゴスティ氏は映画製作において、監督・脚本・撮影・編集、そして公開までの全過程を1人でこなします。
さらにさらに、自前の製作会社と映画館を一から作って、そこで創作の全フェーズを取り仕切った上で、公開時には映写技師やトークショーまですべて自分で行うというのです。
…いくら天才でも流石にやりすぎ感は否めません。
世界広しと言えどもアゴスティほどのワンマン監督は他に類を見ないでしょう。
ただここまでするのには理由があるそう。
アゴスティ氏は、世の中の常識や権力、商業映画の波から制約を受けることなく自由に芸術創作をするため、全てを自己管理しているというのです。
確かにここまで自分で自分を囲っていたら、なかなか多くの人には認知されにくいでしょう。
『カーネーションの卵』
そして現在入手可能なアゴスティ作品の中で特におすすめの一本が『カーネーションの卵』です。
物語は1人の中年男性が第二次大戦のイタリアで過ごした幼少期を回想するという、アゴスティ監督の自伝的ストーリーとなっています。
本作はとにかく「本当に一人で全部撮影したのか」と疑ってしまうほど、神秘的で魔術的な映像が連続して登場します。
テーマは子供の目線から「のぞき」見た悲劇的世界の美しさ。
中年の主人公シルヴァーノが、すでに廃墟と化したかつての家に赴き、鍵を拾って、取っ手の輪っか部分から太陽をのぞき見ることで幼少期への回想が始まります。
少年シルヴァーノの目から見る戦場はやけに静かで神秘的です。
海一面ブルーに染まった夢の景色、洞窟に眠る日本女性の美しい遺体、巨木のてっぺんで大きなシャボン玉に包まれる子供たち、ユダヤのバイオリン弾きに見せてもらう映写機、泥の中にある生首の眠るような顔…
悲劇的なはずなのになぜか美しさを感じてしまうのです。
ちなみに「カーネーションの卵」とは子供たちの間に伝わる伝説。
夕暮れ時にだけカーネーションの中に現れる小さな玉を見つけて、それを枕の下に入れておくと夢が叶うというもの。
このように寓話的で神秘的な映画を観れることに感謝です。