日本活劇の最高峰!『丹下左膳餘話 百萬兩の壺』
こんにちは、キーノです。
今回は『丹下左膳餘話 百萬兩の壺(たんげさぜんよわ ひゃくまんりょうのつぼ)』!
山中貞雄監督、1935年の日本映画です。
人情、笑い、殺陣の粋…あらゆる面で日本映画の最高峰と言って過言ではないでしょう。
あらすじ
一国一城の殿様は、とある粗末な壺を弟・源三郎に譲ってしまった。しかしそれは百万両の家宝の在処を示す地図が塗り込められた「こけ猿の壺」だった!
それを知らず源三郎も屑屋に売ってしまい、屑屋もまた近所の少年・安吉にあげてしまう。安吉はそれを金魚鉢にして大切にする。
ある夜、父親を亡くした安吉は、片目片腕の剣士・丹下左膳に引き取られる。一方で、殿の家来や源三郎は壺を取り返そうと、街を血眼で探し回っていた。
かくして「こけ猿の壺」を巡る大騒動が勃発するのだった…
これまで鑑賞した日本映画の中で5本の指に入るほど好きな作品です!
キャラクターの交通整理力
本作には個性的なキャラがたくさん登場します。彼らは壺をめぐって入り乱れるのですが、予想に反しまったく混雑しません。
頭の中で人物相関図が描けるほどにスッキリと交通整理がされているのです。さすがは天才・山中貞雄監督。
壺はこんな感じで流れていきます…
1.殿様 「こけ猿」の価値を知らず弟に譲る
2.弟・源三郎 「不知火道場」という剣道場の主人。だが練習しないのでまったく強くない。これまた壺を屑屋に売る。
3.屑屋 廃品を買取り売りさばく商売人。これまた壺を隣家の少年・安吉に譲る。
4.安吉 母を亡くして父と2人暮らしする少年。父は矢場の常連客。壺を金魚鉢に。
5.チンピラ2人 矢場から帰る安吉の父を殺す。
6.矢場の女将 弓引きをする遊び場。ここに丹下左膳が居候している。のちに安吉を引き取る。
観てるこっちは「百萬両がすぐそこに!」と思うも、映画内の人物はそれを知りません。
彼らを巡る壺のニアミスが肝ですね。
「反転」する笑い
本作の魅力は随所に挟まれる「笑い」。しかも「笑い」の起こし方には決まった法則があるのです。
それが「反転」による笑い。まるでコインの裏表をひっくり返すようにして、観ている人の笑いを誘発するのです。
例えば
・矢場の常連である安の父を見送るよう女将に命じられる左膳。「絶対イヤ、絶対いーかない!」と断固拒否の左膳。
→カットが変わると、すでに見送りの最中
・安吉を引き取るよう女将に言う左膳。「絶対イヤ、あんな汚い子!」と断固拒否の女将。
→カットが変わると、「ご飯おいしい?」なんて可愛がってる
・安吉を「剣道場に通わそう」と言う左膳。「絶対、寺子屋!」と女将。「アカン、絶対剣道や!」と叫ぶ左膳。
→カットが変わると、「字うまいな」と褒める左膳
とこんな感じで、断固拒否していたことを次のカットでは何食わぬ顔でやってる。
この笑いの取り方をするのは、基本的に女将と左膳だけ。
そう2人はツンデレなのだ。表向きの当たりは厳しいが、心内は誰より暖かいのである。
片目片腕のヒーロー左膳にシビれる!
丹下左膳の殺陣シーン、カッコいい…いやカッコ良すぎる。
何が凄いって、ただズバッと叩っ斬るのではなく、左膳のツンデレと優しさが殺陣にしっかり内包されているのです。
その最たる場面、安吉と夜道を歩く左膳が安吉の父を殺したチンピラの1人と遭遇するシーン。
睨み合う左膳とチンピラ。安吉は相手が父を殺したことを知らない。
すると左膳が安吉に「目をつむって十まで数えな」
安吉「一つ、二つ、三つ…」
数えること九つ、瞬間、左膳の居合斬り一閃!
壁にもたれかかるチンピラ。安吉目を開けて「あのおじさん、なんで唸ってるの?」
左膳「さあな、博打に負けたんだろ」
カッコ良すぎませんか。
カウント内で敵を仕留めるイコライザー的スマートさ、そして子供に人斬りは見せないというポリシー
ただただシビれます。
して最後、百萬両の壺は誰の手に⁈
間違いなく日本映画の最高峰でしょう。