自然の側に居合わせる歓び『青いパパイヤの香り』
こんにちは、キーノです。
今回の作品は『青いパパイヤの香り』
トラン・アン・ユン監督、1993年・ベトナム、フランス・104分
カンヌ国際映画祭 カメラドール新人監督賞 受賞
自然の懐を垣間見る歓び、自然の隣に居合わせる幸せ、蒸し暑さの中に感じる涼しさ。
叙情味溢れる作品で、これまた大好きな一本です。
あらすじ
1951年のサイゴン。
10歳の少女ムイは、田舎から使用人として奉公にやってくる。
ムイは、奉公先の長男の親友クェンに仄かな恋心を抱く。
10年後、ムイは作曲家となったクェンの家で働くことになるが...
自然の側に居合わせる歓び
「物静か・賢い・薄幸感」と、これまた僕の好きな三拍子を兼ね備えた主人公のムイ。
この時点で、本作はほぼお気に入り確定なのですが、それ以上に自然を見つめるムイのまなざしに心打たれました。
彼女は言葉をあまり口にしませんが、言葉では足りないほど、好奇心に満ちた目で自然を、そして生き物を愛でます。
草の上に佇むカエル、地面を忙しなく右往左往するアリ、パパイヤの中にぎっしり詰まった真珠のようなタネ...
特に、捕まえることも言葉をかけることもなく、ただ嬉しそうに眺め続けます。
それは恋心を抱くクェンに対しても同じ。
声をかけることもアプローチをすることもなく、まるで同じ空間に居ることが嬉しいというように。
自然の側に居合わせることの歓びを、ムイは全身で噛みしめているように感じます。
自然と隣り合わせの生活感も素晴らしい。
洗濯板で洗った手干しの衣服、バケツに水を汲んでの雑巾かけ、庭先で調理される香ばしい音、大きな壺に流れ落ちるお米のサァーという音…
この手作業のなんとも美しいこと。
世の中には、ボタンひとつで面倒なプロセスをカットできる便利な物が増えてきましたが、やはり手作業の儀式めいたひと手間に人類の生を感じます。
静かな名作です。
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