キネマ・ジャングル

国・年代・ジャンルを問わず、心に響いた作品について呟いてみる映画ブログです。

生きる、ただそれだけが願い『酔っぱらった馬の時間』

こんにちは、キーノです。

 

今回の作品は『酔っぱらった馬の時間』

バフマン・ゴバディ監督・脚本・製作、2000年・イラン・80分

カンヌ国際映画祭 カメラドール新人監督賞 受賞 

f:id:kinemajungle:20191014123853p:plain

Credit:youtube

本作はフィクションであり、同時にドキュメンタリーでもあります。

 

自身もクルド人であるゴバディ監督は、巨匠キアロスタミのもとで助監督を勤めた人物。

 

満を持して臨んだ初の長編作品には、30年以上を過ごした故郷の現実を題材に選び、本作へと成就しました。

 

ただひたすら「生きたい」と願う子供たちの魂の叫びで本作は満たされています。

f:id:kinemajungle:20191014124018p:plain

Credit:youtube

あらすじ

イラク国境にほど近いイラン領クルディスタン。

母を難産で、父を地雷で亡くした幼い5人兄妹は、自分たちだけで生きていかなければならない。

幼くして家長となった次男のアヨブは、学校に行くことも許されず、身を粉にして働き続ける。

そしてアヨブは、兄妹を養うため、不治の病を抱える小さな兄マディを救うため、命の危険を伴う密輸キャラバンに挑む。

 

「生まれてきた以上は生きねばならぬ」

 

「人生は苦しいもの〜、子供たちも老いていく〜」

 

仕事を終えた子供たちが、トラックの荷台にひしめき合って、こんな歌を口ずさむ。

 

検問所の国境警備隊に引きずり降ろされ、お腹に隠し込んだノートを没収される。学校で使う大事なノートだ。

 

ノート一冊も満足に手に入らない世界の中で、子供たちは生きている。

 

追い払われた子供たちは、膝から下が埋まる雪山の中を隊をなして帰っていく。

f:id:kinemajungle:20191014124034p:plain

Credit:youtube

その中に、5人兄妹の次男アヨブ、次女アーマネ、長男マディがいた。

 

アヨブの背に身を寄せるマディは、15歳にもなるのに赤ん坊のように小さい。彼は不治の病を患い、日々、身体は衰弱していた。

 

道中、マディに薬を飲ませるが、水がないので雪を口に含ませる。

 

長女のロジーネは、まだ幼い末妹の世話で家にいる。

f:id:kinemajungle:20191014124050p:plain

Credit:youtube

苦痛しかない世界の中、5人が望むのはただ生きること。

 

アヨブはその小さな手で4人の家族を食べさせなければならない。大人は助けてくれない。

 

大人たちに混じり、命を落とすかもしれない密輸キャラバンに参加する。

背にマディを背負い、後ろ手でラバを引いて、大雪の中をひたすら歩き続ける。

 

「生まれてきた以上は生きねばならぬ」

 

映画の終わりに、脳裏を過ぎる漱石の言葉。映画で世界の現実を目の当たりにする。

 

気軽に「傑作」と呼んでいいものか、とにかく生きている内に観ておきたい作品です。

 

酔っぱらった馬の時間 [DVD]

酔っぱらった馬の時間 [DVD]