生きる、ただそれだけが願い『酔っぱらった馬の時間』
こんにちは、キーノです。
今回の作品は『酔っぱらった馬の時間』
バフマン・ゴバディ監督・脚本・製作、2000年・イラン・80分
カンヌ国際映画祭 カメラドール新人監督賞 受賞
本作はフィクションであり、同時にドキュメンタリーでもあります。
自身もクルド人であるゴバディ監督は、巨匠キアロスタミのもとで助監督を勤めた人物。
満を持して臨んだ初の長編作品には、30年以上を過ごした故郷の現実を題材に選び、本作へと成就しました。
ただひたすら「生きたい」と願う子供たちの魂の叫びで本作は満たされています。
あらすじ
イラク国境にほど近いイラン領クルディスタン。
母を難産で、父を地雷で亡くした幼い5人兄妹は、自分たちだけで生きていかなければならない。
幼くして家長となった次男のアヨブは、学校に行くことも許されず、身を粉にして働き続ける。
そしてアヨブは、兄妹を養うため、不治の病を抱える小さな兄マディを救うため、命の危険を伴う密輸キャラバンに挑む。
「生まれてきた以上は生きねばならぬ」
「人生は苦しいもの〜、子供たちも老いていく〜」
仕事を終えた子供たちが、トラックの荷台にひしめき合って、こんな歌を口ずさむ。
検問所の国境警備隊に引きずり降ろされ、お腹に隠し込んだノートを没収される。学校で使う大事なノートだ。
ノート一冊も満足に手に入らない世界の中で、子供たちは生きている。
追い払われた子供たちは、膝から下が埋まる雪山の中を隊をなして帰っていく。
その中に、5人兄妹の次男アヨブ、次女アーマネ、長男マディがいた。
アヨブの背に身を寄せるマディは、15歳にもなるのに赤ん坊のように小さい。彼は不治の病を患い、日々、身体は衰弱していた。
道中、マディに薬を飲ませるが、水がないので雪を口に含ませる。
長女のロジーネは、まだ幼い末妹の世話で家にいる。
苦痛しかない世界の中、5人が望むのはただ生きること。
アヨブはその小さな手で4人の家族を食べさせなければならない。大人は助けてくれない。
大人たちに混じり、命を落とすかもしれない密輸キャラバンに参加する。
背にマディを背負い、後ろ手でラバを引いて、大雪の中をひたすら歩き続ける。
「生まれてきた以上は生きねばならぬ」
映画の終わりに、脳裏を過ぎる漱石の言葉。映画で世界の現実を目の当たりにする。
気軽に「傑作」と呼んでいいものか、とにかく生きている内に観ておきたい作品です。