ギリシア・ロードムービーの名作『霧の中の風景』
こんにちは、キーノです。
今回の作品は『霧の中の風景』
テオ・アンゲロプロス監督、1988年・ギリシア、仏、伊・127分
第45回 ヴェネツィア国際映画祭 銀獅子賞
もうこれはオールタイムベスト級に大好きな作品。同監督の中でも、個人的には一番です。
明確な目的地も見えない中、ただ前に進み続けるしかない姉弟を寓話的に描き出したロードムービーの傑作だと思います。
あらすじ
ギリシアのアテネ。
12歳の姉ヴーラと5歳の弟アレクサンドロスは、母子家庭のもとに暮らしている。
ある日、父親が隣国のドイツにいることを聞いた姉弟は、国際列車に飛び乗って父を探す旅に出る。
霧の中に「奇跡」を探す旅
幼気な弟アレクサンドロスも素敵だが、姉のヴーラがとにかく素晴らしい。
僕は映画の中に出てくる、物静かで聡い少女にめっぽう弱いのです。
孤独で薄幸感をまとっている姿にとても惹かれます。
『ぼくのエリ』や『パンズ・ラビリンス』、『クジラ島の少女』など、このタイプの少女が出ている映画に好きなものが多いです。
見た目もみんなどことなく似ているんですよね。
そんなヴーラが列車の中で、見知らぬ父に送る手紙のモノローグに、そこはかとない美しさを感じます。
ご迷惑にならないよう、お顔を見たらすぐに帰ります。
とても会いたいです。
答えてくださるなら、列車の音に託してください。
タタン...タタン...タタン...
ところが姉弟の思いとは裏腹に旅は彼らを冷たくあしらいます。
実は目的とする父の居どころも、生きているのかも、そもそもドイツにいるのかも分かっていないのです。
それでも2人は暗闇の中を手探りするようにドイツを目指します。
まさに霧のただ中を進んで行くしかないのです。
2人の旅路はさまざまな寓話的風景に彩られます。
降る雪に時が止まった町の中を、2人だけが手を取り合って駆け抜ける風景...
雪に覆われた夜の路上、涙に暮れる花嫁と息も絶え絶えの白馬が横たわる風景...
風吹きすさぶ早朝、海の波間から突如現れる右手の巨像の風景...
長い長い旅は、2人の姉弟を時に残酷にもてあそんでしまいます。
それは幼い2人には辛すぎるものでもあります。
しかし、どんな悲劇の中にあっても健気にひた走ることをやめない2人の姿を見ては、こちらが目を背けることは決して出来ないのです。