キネマ・ジャングル

国・年代・ジャンルを問わず、心に響いた作品について呟いてみる映画ブログです。

狂気革命:『If もしも』は『時計じかけのオレンジ』へと進化する

こんにちは、キーノです。

 

今回の作品は『If もしも』

リンゼイ・アンダーソン監督、1968年・イギリス・112分

第22回カンヌ国際映画祭 パルムドール受賞

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Credit:Amazon.co.jp

「規則に支配された世界の中で少年の狂気が目を覚ます。」

 

そう一言で要約できる本作は、『時計じかけのオレンジ』(1972)の前日譚として位置付けられそうな作品となっています。

 

本作の主人公ミックを演じるのはマルコム・マクダウェル

何を隠そう『時計じかけ〜』の主役アレックスを演じた俳優です。

 

キューブリック監督が本作を観て、マクダウェルをアレックス役に抜擢したというのは有名な話(らしい)。

 

またマクダウェルの主役像にもかなり相通ずる所があるので、両作品を狂気二部作と銘打っておきたい次第なのです。

 

あらすじ

上級生や教師に完全支配された全寮制の名門校。下級生たちは監督生に絶対服従しなければならない。

その中で主人公ミックは、仲間のジョニーやウォレスと共に規則破りの常習犯として、危険分子と見なされていた。

3人の行動に耐えかねた上級生は彼らを呼び出し、鞭打ちの罰則を与える。

その日からミックたちは学校に革命を起こすため、武装蜂起する計画を立てる。

 

「もしも」の映像世界

本作は、カラーとモノクロがランダムに入り乱れる不思議な映像が特徴となっています。

 

ここにはタイトルが示すように「もしこの規則だらけの世界で〜できたなら」というミックたちの「If」が反映されています。

 

しかしどこから妄想でどこまで現実なのか、見分けがつきません。

 

モノクロ部分が虚構なのか、それともカラー引っくるめてIfなのか、観ている側は煙に巻かれます。

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中央ミック(M.マクダウェル)/Credit:youtube

明らかに現実ではなかろう場面もあります。

ミックたちが罰として命じられた物置小屋のゴミ出しの際、鍵のかかった怪しげな棚が見つかります。

 

斧で鍵をぶち破って扉を開けると、棚板には得体の知れない生物がホルマリン漬けにされて無数に並んでいたのです。

 

ちょっとリンチ監督の『イレイザーヘッド』に近い匂いがしました。

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Credit:youtube

 

ミックからアレックスへ

監督生からの鞭打ちを受けた3人は、ついに狂気のスイッチをオンにします。

 

特にリーダー格のミックは、(ただ肉体的な意味での痛みによって)涙が出るまで執拗に鞭を打たれました。

それはもはや反発心では止められない屈辱の涙でした。

 

しかも罰後は、監督生に「ありがとうございました」と一礼しなければならないという屈辱の上乗せ。

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Credit:youtube

こうして瞳を狂気に爛々と光らせるミックの姿は、もうアレックスに片足を突っ込んだも同然です。

 

3人は部屋に戻り、カッターで手のひらに傷を入れ、血の契りを交わします。

 

「迫害者に死を」、実行開始の合図。

 

物置の奥底で眠っていた大量の武装兵器を手に入れ、開校500周年を祝う式典でついに狂気の革命を起こします。

 

ここからは直接目に焼き付けるのが一番です。

 

荒れ狂う地獄絵図の中、ミックはただひたすら純粋なまでに狂気に身を委ねます。

 

怒りが沸点に達したピークでバツンと終わるキレ味も素晴らしい。

 

そして彼は数年後、アレックスとなって「雨に唄えば」を高らかに歌うというわけですね。

 

『If もしも』と『時計じかけのオレンジ』を立て続けに鑑賞すると内なる狂気が目を覚ますかもしれません。

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