夏にオススメこの一本!『ぼくの伯父さんの休暇』
こんにちは、キーノです。
今回の作品は『ぼくの伯父さんの休暇』。
ジャック・タチ監督、1953年・フランス・88分
原題: Les vacances de Monsieur Hulot
「夏になったら観たくなる」
そんな作品が皆さんにもあると思いますが、僕の夏ベスト映画は本作『ぼくの伯父さんの休暇』です。
内容は中年男性のユロ氏(タチ監督本人)がバカンス中に繰り広げる珍道中を追うというシンプルなもの。
ギャグやアクシデントが無秩序に羅列されるばかりで、起承転結という一貫したストーリーはありません。
しかしそれが返って「ユロ氏」という変数人間のランダム性をより輝かせているのです。
天然素材「ユロ氏」
ジャズサウンドに乗せて、海の波が浜辺に打ち寄せるショットで幕を開ける本作。
清涼感とともにバカンスの始まりが告げられるこのスタートはとても素晴らしい。
浮き輪や虫取り網を抱えた大勢の子どもや大人がこぞって列車に詰めかけ、避暑地へと出発する。
そんな中、一台のオンボロ車が坂の向こうから現れる。
自転車のように細いタイヤが4つ頼りなげに付いているアミルカーだ。
道の後にはどこかから外れたであろう部品がヘンゼルとグレーテルよろしくとり残される。
今にも崩れ落ちそうなくせに、やけに自信ありげな車の足取りが妙に可笑しい。
中でハンドルを握るのはユロ氏だ。
ユロ氏はワンタンのような帽子に手入れされたスーツを着込んだ天然純朴な中年男性。
道のど真ん中では、暑さにうなだれた犬が通せんぼをしている。
クラクションを鳴らすが、車からはアヒルがクワクワッと鳴くような情けない音しか出ない。
それを聞いて仕方なげに道を譲ってあげる犬もすこぶる可笑しい。
夏の避暑地にふっと現れた不思議な存在、それがユロ氏だ。
ユロ氏の後に「笑い」が残る
最初に指摘したように、本作に基軸となるストーリーはほぼ皆無。
ユロ氏が通った後にただただ無数の笑いが残されるばかりだ。
いくつかピックアップしてみると
ビーチの真ん中に女性専用の着替え小屋がある。
その小屋の裏手に中腰でお尻だけが見えている男性がいた。
のぞき魔だと思ったユロ氏は、彼のお尻を目一杯蹴飛ばす。
ところが男性は家族写真を撮るために、三脚のカメラを除いていただけだった。
ビーチをぶらつくユロ氏は目の前の細長い木製ボートに気づかず、足で踏んづけて真ん中をバキッと割ってしまう。
お構いなしに、そのボートに乗り込んだユロ氏は海に出る。
案の定、ボートは水中から大口を開けて現れたサメのようにユロ氏を飲み込んでしまう。
割れたボートは綺麗に折り重なり、サンドイッチ状態となって海面をたゆたう。それを見た避暑客がサメと勘違いしてビーチを逃げまどう。
ついに故障したユロ氏の車。
ヒモで繋いでトラックに牽引してもらうものの、なかなか前に進まない。
様子を見ようとユロ氏が足を出した瞬間、牽引のタイミングでちょうどピンと張ったヒモを踏んでしまう。
途端にユロ氏は勢いよくビヨーンと目の前の海にすっ飛んでいく。
ユロ氏の前に笑いはない、ユロ氏の後に笑いが出来る。
このような感じでお話しが進んでいく。
クライマックスに起こる、極めつけの花火騒動は是非とも直接観ていただきたい面白さ。
そしてバカンスも終わり、人々が互いに別れを告げ、散り散りに避暑地を去っていく。
夏の想い出に封をするかのように、避暑地を映す画面の右上に消印のようなスタンプがポンと押される。
夏の休暇が始まる昂揚感と終わりを迎える寂しさを一枚のポストカードにまとめたような素晴らしい作品。
来年の夏もまた観たくなる、そんなマイベスト夏映画です。