映画史上最高のクライマックス『アンダーグラウンド』
こんにちは、キーノです。
今回の作品は『アンダーグラウンド』。
エミール・クストリッツァ監督・1995年・旧ユーゴスラヴィア
劇場版 171分・完全版 5時間14分・カンヌ国際映画祭 パルムドール受賞
本作は戦火の旧ユーゴスラヴィアを舞台に繰り広げられる悲喜劇の大傑作です。
大げさではなく、僕はいまだに本作を越えるクライマックスには出会っていません。
話は1941年4月6日の首都爆撃から始まり、ユーゴ共産党のマルコが人々を地下室に避難させ、その後20年もの間「戦争はまだ続いている」と言って地下生活を続けさせるというもの。
紆余曲折を経て迎えるパーフェクトな大団円には鳥肌を禁じえません。
ユーゴは二度死ぬ
舞台となるユーゴスラヴィアは残念ながら今は亡き国となっています。
場所は「ヨーロッパの火薬庫」と謳われたバルカン半島。左にイタリア、真上にオーストリア、右に東欧諸圏、下はギリシアに囲まれた狭間の国です。
そんなユーゴは「二度生まれて、二度死んだ国」とよく言われます。
一度目の誕生は1918年に王国として、一度目の死は1941年にナチスなどの侵入によって。
二度目の誕生は1945年にユーゴスラヴィア連邦共和国として、そして二度目の死は1992年のユーゴ解体によってです。
『アンダーグラウンド』が描くのは、1941年のナチスによる首都ベオグラード爆撃〜1992年の内戦まで。
つまりユーゴの二度の死を含む激動の50年を丸々物語にしているのです。
そんな過酷な時代の始まりを告げるかのように、冒頭でジプシー・ブラスバンドが夜の町を賑やかに駆け抜けます。
1945年に復活した「第2のユーゴ」は6つの共和国と2つの自治州から成る連邦国でした。
世界大戦時は周辺国家との紛争に明け暮れ、結果としてその間、ユーゴはひとつに結束していました。
ところが世界大戦が終わると、他国との緊張関係が急激に弛み始め、今度は多民族国家の宿命でもある内輪揉めが勃発します。
そうして起こった内戦は親兄弟が殺し合わなければならない悲惨なものでした。
このようにユーゴは外との喧嘩の直後に内との喧嘩を連続することで、徐々に結束が崩壊していくのです。
人間賛歌、ユーゴの神話化
悲惨な歴史を丸ごと描き切った本作が見事なのは言うまでもありませんが、それを厭世観やニヒリズム満載で描くのではなく、爆発的な喜劇として体現しているところが素晴らしいです。
さすがのクストリッツァ節と言いましょうか、お得意の首吊りが笑いになる必殺シーンも登場します。
『アンダーグランド』から読み取れるメッセージは山とあるでしょうが、その中で僕は「許せる心」という人間賛歌にシビれました。
愛する家族や友人、嫌いな人、騙す人、騙される人…身の回りには色んなタイプの人がいます。
生きている以上、誰かに迷惑をかけること、かけられることは避けて通れません。
時にそれは本作のように殺し合いにまで発展することもあります。
「それでも人が心の奥底で本当に願っていることはあの永遠の島にある」
それをクストリッツァ監督はラストで完璧なまでに表現してくれました。
人に謝り、人を許し、悲劇と喜劇が和解して島が割れ、いつの時代にも語り継がれる神話へと昇華する究極のラスト、究極の人間賛歌。
最後にとある人物が観客に向かってこう語りかけます。
「苦痛と悲しみと喜びなしには語り伝えられない。"昔ある所に国があった"と」
このクライマックスに出逢ったときの感情はとても言葉では言い表せません。
まさにそれは苦痛と悲しみと喜びがない交ぜになったものでした。
「もう今後本作を越えるクライマックスには二度と出会えないかもしれない」
観るたびにいつもそう思ってしまうのです。
おまけ)まさに爆竹音楽!ジプシー・ブラスこの一曲
ちなみに完全版は5時間越えとなっていますが、6話構成なのでゆっくりじっくり楽しむにはもってこい。
劇場版では語りきれなかった人物のサイドストーリーや泣く泣くカットされた爆笑必至のシーンもてんこ盛りとなっています。
そして本作を彩るジプシー・ブラスは本当に最高です。クストリッツァ作品には欠かせないリズムですね。
監督が参加しているバンドNo Smoking Orchestraの「Unza Unza Time」が最高にカッコよくて粋なジプシー・ブラスの一曲となっています。
PV自体がクストリッツァ映画のようなのでぜひチェックして欲しいです。