不気味の国のアリス『ブラック・ムーン』
こんにちは、キーノです。
今回の作品は『ブラック・ムーン』。
ルイ・マル監督、1975年のフランス・西ドイツ映画(92分)です。
本作は1人の少女が現実から逃れて夢のような異空間に迷い込むという、いわゆる「ここではないどこか」物語です。
『オズの魔法使い』『千と千尋の神隠し』『パンズ・ラビリンス』などが同じ仲間ですが、本作の下敷きになっているのは『不思議の国のアリス』。
ところが本作の主人公リリーが迷い込むのは、夢の国ではなく、奇妙で不穏な不気味の国なのであります。
あらすじ
時代も場所も定かでない近未来、世界では男と女の戦争が繰り広げられていた。
少女リリーはそんな現実から逃げるようにして山道を駆け下りる。気がつくと彼女は奇妙な異空間に入り込んでいた。
目の前にはユニコーンが。そして突如現れた馬を駆る人を追って行くと、一軒の館にたどり着く…
不穏な異世界トリップ
とにかくつかみどころのないおとぎ話で、冒頭から観る人を煙に巻くような始まり方をします。
道路の真ん中で1匹のアナグマが食べ物を探している。スゥーと画面奥に伸びる道路、画面はまだアナグマを映す。
奥から何かが猛スピードで近付いてくる。物色を続けるアナグマ。近づく、どんどん近づく、車だ!思う間にグシャン。
アナグマは唐突に轢き殺されてしまう。
思わずポカンです。
車からはまだ10代に見える少女が降りてきて、アナグマを無表情に見下ろします。
思えばここから異世界へのトリップは始まっていたのでしょう。
本家『不思議の国のアリス』も穴から出てきたウサギが異世界への扉となっていました。(…殺してはいませんが)
動物と人間が等価値なユートピア世界
「ここではないどこか」モノでは割と定番だと思うのですが、異世界では動物と人間が対等の関係を結びます。
本作も同様に沢山の昆虫・動物が登場しますが、その描き方はファンタジックよりもむしろストレートなもの。
異世界に入り込んだ直後に、リリーが草むらの上で意識を取り戻すシーンがありますが、そこで彼女の目の前を巨大なムカデがゆっくりと這って行きます。
目を移すと側ではカマキリやゴキブリが戯れています。
また別のシーンではベッドで横になるリリーの足元をヘビが滑らかに這い、大きなネズミが家の中を闊歩します。
その動物の大方は言葉を話すでも服を着ているでもなく、ありのままの姿です。
しかしリリーはそれに驚く様子もなく、当然の光景のごとく動物たちに接するのです。
その極めつけは、アリが大量にたかっているチーズをちょちょいと振り払ってかぶりつくところ。
彼女にとって動物は異物ではなく、自分と同じ目線にいる存在なのでしょう。
それはある意味でユートピアにも見えました。
ただ虫が苦手な方には試練の連続になるかもしれません。
とにもかくにも観る側は妄想とも現実ともつかない異空間の中で宙吊りにされる感覚に陥るでしょう。
いずれにせよ、そこは夢のある華やかな世界ではなく、戦火の中にこっそり開いた不気味の国であることに間違いはありません。
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