キネマ・ジャングル

国・年代・ジャンルを問わず、心に響いた作品について呟いてみる映画ブログです。

これぞ「魔女」の恐怖。ホラーの名作『ウィッチ』

こんにちは、キーノです。

 

今回の作品は『ウィッチ』

 

ロバート・エガース監督、2015年のアメリカ・カナダ映画(93分)です。

 

17世紀の魔女伝説を描いたホラー作品。

 

見えない魔女の脅威、正気を失っていく家族、音を立てて崩壊する信頼関係…

 

不気味なほど静かに押し寄せる恐怖に背筋も凍る思い。

 

「こんなホラーをこそ観たかった!」そう思える作品です。

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Credit:Amazon.co.jp

あらすじ

17世紀のニューイングランド、敬虔なキリスト教徒の一家は神の教えに従うため、村外れの荒地に居を移す。

しかし新たに誕生した赤子のサムが突然何者かに連れ去られてしまった。森に住む魔女の仕業か、一家に不穏な空気が漂い始める。

父は長女のトマシンが魔女ではないかと疑うことで、次第に家族の歯車が狂い出す…

 

※ネタバレ含みます!

 

見えない「魔女」の脅威

ファンタジー作品を見慣れているせいか、魔女の可愛さばかりが目に付く今日この頃ですが、本作を観て再確認。

 

そうだ、これこそ魔女の真の恐さだ。

 

子供の頃に見ていたら確実にトラウマになってましたね。

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Credit:youtube

本作は魔女の姿をくっきり見せることはほぼしません。

 

大抵、引きの画か闇に溶け込ませているか、あるいは変身姿です。

魔女の登場シーンもそんなにありません。

 

しかしです。

 

全編を通して「魔女がすぐ側にいる、ずっとこっちを見ている」

そんな感覚が付いて離れません。

 

心理的に圧迫させるように家族を追い詰め、内側から崩壊させていく。

 

自ら出向くことも、直接手を下すこともほとんど皆無。

 

誘惑し、不信感を抱かせ、信頼関係を崩し、自滅させる。

 

これこそ魔女のタクティクスですね。

 

地獄のシーン(ネタバレです)

魔女の影に苛まれ、犠牲となる一家は全員で7人。

 

・父ウィリアム

・母キャサリン

・長女トマシン

・長男ケイレブ

・双子の次女マーシーと次男ジョナス

・赤子のサム

 

最初の犠牲者は赤子のサム。

 

森の近くでトマシンがサムをあやしている。画面はトマシンの顔を映す。

 

いないいないばあ、サム笑う。いないいないばあ、またサム笑う。いないいないいないばあ、サムいない。

 

この見せ方、不気味ですね。

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Credit:youtube

その後、画面は闇に包まれた洞穴に移る。

 

裸の状態で横になるサムが一杯に映る。奥に何かがいる。

 

皺だれた右手がぬっと現れ、サムのお腹に触れる。

左手が映る、ナイフを持っている、お腹に当てた。

 

これ以上は見せられない。

 

次のカット、老婆の後ろ姿が映る。贅肉の垂れ下がった肌は灰色に腐食している。

 

後姿だが何かを臼の中ですり潰しているのが窺える。もう皆まで言わなくとも中身は分かってしまう。

 

老婆はそれを身体中に塗りたくった。

 

何という地獄のシーンでしょうか。

 

家族の悪夢的崩壊

子供たちが消えていく。

 

森に出かけても何故か助かる長女トマシン、無邪気だがどこか様子のおかしい双子、正気を失っていく母親。

 

「この中に魔女がいる、キリストを裏切り悪魔と契約した者がいる」

 

徐々に不信感や疑念が家族の輪を蝕み始める。

皆で手を繋ぎ、善の輪が崩れないよう、必死でキリストの祈りを唱える。

 

しかし時すでに遅し。

 

魔女の影は完全に家族全員を侵していた。

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Credit:youtube

不信感が限界値を越えて暴発したとき、目も当てられない惨劇が起こります。

 

何か見えない邪悪な存在が家族を狂わせていく展開、悪魔の忍び寄り、神々しいまでの悪魔的祝祭感。

 

色々な面で、本作はかなり『ヘレディタリー/継承』に似ていると感じました。

 

 

突発的な描写でなく、心理的に少しずつ追い詰めていく恐さ。

 

これは何度も観たい、美しく上品なホラー映画の傑作でした。 

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