キネマ・ジャングル

国・年代・ジャンルを問わず、心に響いた作品について呟いてみる映画ブログです。

サイレント神話の哀しき復活『サンセット大通り』

こんにちは、キーノです。

 

今回は、名作中の名作『サンセット大通り』!

 

ビリー・ワイルダー監督、1950年のアメリカ映画です。

 

本作のクライマックス!この恐怖と感動と哀しみを同時に覚える稀有なラストに心が飽和状態を迎えました。

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Credit:ja.wikipedia

あらすじ

鳴かず飛ばずの脚本家ギリスは、取り立て屋に追われて、思わず目の前の屋敷に飛び込む。
そこには無声映画時代の大女優ノーマ・デズモンドが住んでいた。 再起を狙うノーマは、ギリスに脚本の執筆を依頼するのだが…

 

サイレントとトーキーの邂逅

主役のノーマはかつての栄光という幻の中で生きる存在です。

幽霊屋敷のような邸宅の内は、スターだった時の写真で埋め尽くされています。

その光景たるや、もはや自分博物館でした。

 

ノーマを演じるのは実際にサイレント・スターだったグロリア・スワンソン

過去の栄光に生きるノーマを圧倒的な迫力で演じています。

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Credit:youtube

そして本作の凄みはサイレントとトーキーの演出が融合しているところです!

これは宇宙一の映画評論家・淀川長治さんの言。

 

『サンセット大通り』はサイレントとトーキーの演技が混ざってるめずらしい映画なの。

 

確かにノーマの身振りはやたらめったら仰々しい。

サイレントはセリフがない分、身振りを大きくして感情を伝える必要があります。

ノーマの演技はまさにそれ!

 

一方で若者ギリスを演じたウィリアム・ホールデンは身振りを抑えたセリフ重視の演技。完全なるトーキー仕様ですよね。

 

こういう見方をすると鑑賞が俄然面白くなりました!さすがは淀川先生‼︎

 

神話時代の映画人(本人!)が登場!

かつてのスターが栄光という幻の中で生きるというストーリー。

 

ちょっと待ってください、どこかで聞いたことありますね。

…と思い出されたのは、映画『何がジェーンに起こったか?』

 

巨匠ロバート・アルドリッチ監督の名作ですが、本作とかなり似ている部分があります。

かつて天才子役だった中年女性ジェーンが、昔を忘れられず今も少女の格好をしているという悲しい話。ザックリすぎて申し訳ないですが。 

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『何がジェーンに起こったか?』/Credit:ja.wikipedia

ところがこれはあくまでジェーン個人のお話であって、サンセットとはやはり違います。

 

サンセットはノーマだけではなく、サイレントというハリウッド神話時代全体の問題なのです。

それを示すかのように、サイレントの映画人たち本人が多数出演しています。

 

まず、奇才監督&俳優だったエリッヒ・フォン・シュトロハイム

伝説の無声映画『グリード』の監督です。かなりの完璧主義者で、『グリード』も始めは9時間あったとか。

本作ではノーマの幻想を守ろうとする執事役で登場します。

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シュトロハイム/Credit:ja.wikipedia

 

それから僕の大好きなバスター・キートンが登場‼︎

ギリスに「蝋人形みてぇ」と揶揄されていましたが。ギリスこんにゃろ。

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キートン/Credit:ja.wikipedia

 

そして大巨匠セシル・B・デミル監督も本人役で登場します。贅沢極まりないですね。

ただデミル監督は落ちぶれ役ではなく、現役バリバリ役で出ていますが。

当時ホントに撮影中だった『サムソンとデリラ』のセットが出てくるお宝映像も!

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デミル/Credit:ja.wikipedia

 

というわけで本作には、霧と消えたサイレント神話時代全体の哀しみが感じられました。

 

奇跡のクライマックス

噂には聞いてましたが、本作のクライマックスは鳥肌ものでした。

 

予備知識なしでも十分に圧倒的ですが、やはりスワンソンやシュトロハイムがどんな経歴で撮影当時どんな状況にあったのか知っておくと、鳥肌出現度は4割増しでしたね。

 

ラスト、ノーマの邸宅にとある事件の取材で記者たちが集まる。映画の撮影ではまったくない。

正気を失った彼女は何十年ぶりにカメラを向けられ嬉々とする。豪奢な階段をゆっくり降りていくノーマ。ロビーには報道カメラがビッシリ。

 

「私が一番…私こそスター…」

 

そう聞こえてきそうな迫真の演技。まさにサイレント芸術。

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Credit:youtube

そして執事役のシュトロハイムがカメラを構え一言「アクション!」

これ聞けただけで僕は昇天です。

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Credit:youtube

かつてはグリフィス監督、デミル監督と肩を並べたシュトロハイム。

意欲はあれど、会社と折り合いが合わず監督の仕事がまったくできなくなりました。

からの一言。…泣きませんか?

 

とにかく生きてる内に観れて良かったと思える傑作でした。