キネマ・ジャングル

国・年代・ジャンルを問わず、心に響いた作品について呟いてみる映画ブログです。

映画は現実を飲み込む⁈『マチネー/土曜の午後はキッスで始まる』

こんにちは、キーノです。

 

今回の作品は、『マチネー/土曜の午後はキッスで始まる』!

良いタイトルですね〜、ジャケットデザインもホントに素敵です。

 

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Credit:ja.wikipedia


監督は『グレムリン』『インナースペース』『エクスプロラーズ』などを手がけたジョー・ダンテ氏。

 

そんなダンテ作品の中で、僕がもっとも好きなのが本作『マチネー』です。

 

あらすじ

1962年のアメリカ。キューバ危機に揺れる町キーウェストに住む少年ジーンは弟と一緒にB級映画を観に行くのが唯一の趣味。
その町にB級映画の帝王ウールジーが新作を引っさげてやって来るという話が。
しかしこれをキッカケに映画館を舞台にした大騒動が勃発する。

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本作の凄み面白味は、映画が持つ力をハッキリ明示してくれたところにあると思います。

 

ズバリ、第四の壁をぶち壊して現実を飲み込んでしまう映画のパワー現実の悲劇を映像遺産としてメモライズできる映画のパワーです。

 

溢れ出すB級映画への愛

舞台となるのはフロリダ州キーウェストという田舎町。

そこにB級ホラー映画の帝王ローレンス・ウールジー(ジョン・グッドマン)が新作を引っさげてやって来ます。

主人公のジーン少年は大のB級ホラーマニアなので大喜びです。

 

この新作は『MANT!』という題なんですが、全体の内容が分かるくらいしっかり観せてくれるので嬉しい。

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これは放射能で人間と蟻が遺伝子的に合体してしまって、徐々に蟻化が進むというモロにB級な内容。

顔から腕、お尻まで蟻になって内面も蟻の気持ちになってくるという『ザ・フライ』的展開。

MAN+ANTでMANT、今人気のアントマンとは大違いに悲惨な姿ですよ。

最後はモスラくらい巨大化して、ビルの壁を這い回ります。

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これ単体で観たいくらいよく出来ていて、監督のB級映画愛が溢れてました。

それからもうひとつ『暴走ショッピングカート』なる映画の予告編が登場します。

 

カートが暴れ出して強盗っぽい2人組を退治するんですが、そこにやたら美人な女優さんが出てるんですね。

それがなんと若き日のナオミ・ワッツさんだったので驚きでした。

 

ウールジー監督には元ネタが

『MANT!』の監督ウールジーには、元ネタ人物がいます。

ウィリアム・キャッスルという1950〜70年くらいに活躍したB級映画監督がその人。

 

キャッスル監督はギミックの帝王と呼ばれていて、映画館に仕掛け(ギミック)を施すことで有名だったみたいです。

例えば、劇場内の椅子にビリビリ電気を仕込んだり、「恐すぎて死んでも責任は取りません」といった同意書にサインさせたり。

 今の4DXのオリジンですね。

 

まったく同じようなギミックが本作でも数々登場してきますよ。

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キャッスル監督はあの巨匠ヒッチコックにも影響を与えたらしく、キャッスル作品に触発されて傑作『サイコ』を作ったと言われています。

キャッスル本人もヒッチコックを真似た怪しげな雰囲気漂う作品前説をしていたとのこと。

 

この様子も劇中に登場しますね。

キャッスルとヒッチコックは互いに刺激し合ったライバルだったのかも。

 

それを示すかのようなシーンが本作にあるんですよ。

ウールジーがガソリンスタンドの店員からサインを求められ、嬉しそうにサインするんですが、直後に店員は「ありがとうございます、ヒッチコックさん」て言うんですね。

それを聞いてウールジーがブスッとしたところを見ると、ヒッチコック監督へのライバル心も垣間見えてきます。

 

映画は現実、現実は映画だ!

…というメッセージが本作にはあるような気がしてなりません。

 

ギミックを使う=映画と現実の世界を地続きなものする、という構図が感じられます。

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それから本作はキューバ危機が巨大なテーマ。

キーウェストの住人たちはいつ核爆弾が落ちて死んでもおかしくないと恐れています。

 劇場の館主は館内に自分用の核シェルターまで準備して、世界の終末に備えてるんですね。

 

そして物語のクライマックス。

帝王ウールジーのギミックとキューバ危機が呼応する驚きの展開。

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以下少しネタバレです、スイマセン!

 

ラスト、核シェルターに取り残された主人公とヒロインは本気で自分たちが最後の人類だと思い込みます。

まさに映画と現実の垣根が崩れた瞬間です。

 

日本の巨匠・大林宣彦監督がこんなことをおっしゃってました。

現実の悲劇、戦争や災害をリアリズムで報道すると記録としてしか残らない。 これを記憶として残すのは芸術にしかできない。つまり映画の仕事だ。

同じようなメッセージ性をまた本作『マチネー』にも見いだせるかもしれません。

単なる娯楽にとどまらない凄みがありました!