強欲の果ての地獄絵図。悪魔的傑作『グリード』
こんにちは、キーノです。
今回の作品は『グリード』
エーリッヒ・フォン・シュトロハイム監督、1924年・アメリカ・129分
「中学生のとき学校の勉強などしておれなかった。寝ても覚めても迫る衝撃を受け、留年させられかけた」
とは、映画評論家・淀川長治さんのグリード評。
1人の少年を夢の中までも執心させてしまう本作には、計り知れない魔力があります。
シュトロハイム監督は、その狂気に満ちた完璧主義から、当初9時間のフィルムを撮り上げていました。
その後、4回の編集を受け、今の状態に落ち着いたそう。
映画が産声を上げてまだ30年という時代に、『グリード』が存在していたことは驚異です。
あらすじ
純朴な歯科医マック・ティーグは、友人のマーカスが連れてきた彼の婚約者トリナに惹かれてしまう。
マーカスに懇願し、トリナを妻にしたマック。マーカスは祝いに一枚の宝くじを贈る。
なんと宝くじは5000ドルの大当たり、夫婦は大金持ちに。
しかし、トリナは金貨の虜となり、見る見るうちに人が変わってしまう。
※以下、内容に触れています。
グリードの果てに見た世界
マックは、もともと炭鉱で働く優しい大男だった。
死にかけの小鳥を拾って助けるほど心は清い。(小鳥は彼の純心を象徴する、ラストの伏線に)
しかし、トリナと出会ったその日から、人生の歯車は狂い始める。
美人ではないが、抵抗しがたい妖艶さを漂わせる彼女に、マックは生まれて初めて心が揺らぐ。
2週間のあいだ毎日、治療に訪れるトリナ。ついにマックは耐えきれず、麻酔で寝ている彼女に口づけをしてしまう。
理性が本能に敗れた瞬間だった。
結婚後、金貨に魅せられたトリナは人が変わる。夜な夜なベッドに金貨を並べ、一枚一枚磨いて愛おしそうに見つめる。
マックの給料を吸い取り、一銭も使わず、敢えて貧しい生活に身を陥とす。
ついにマックの愛も潰え、別れを告げるが、無一文の彼はクリスマスの夜、トリナの元へ行き...そして、ある惨劇を迎える。
ここからグリードは加速する。
マックは、馬の背に荷物と金貨を括り付け逃亡。
彼の指名手配ポスターを見たかつての友人マーカスは、婚約者と大金を奪ったマックに嫉妬と怒りを抱く。
マーカスも馬に乗り、マックを追跡。二人は、獣も寄り付かぬ荒涼とした"死の谷"へと辿り着く。
焼き付ける灼熱の太陽に、マーカスの馬は命を落とす。それでもマックを追い詰め、彼の馬の背にある水欲しさに銃を発射。
銃弾は見事に馬を絶命させるが、同時に水筒をも貫いていた。
土に虚しく消えた水。二人の男が殴り合う。
ついにマックは、奪い取った銃でマーカスを殴り殺す。しかし死の直前、マーカスは、マックと自分を手錠で繋いでいた。
かつての友人と馬の死体を前に、マックは連れていた小鳥を空に放つ。
愛情も友情も純心も失ったマック。
側には何の役にも立たない金貨が、われ関せずと太陽に光っていた。
カメラは、二つの死体と一つの強欲を荒野に残し、静かに後へ引いていく。
グリード、誰の内にも潜んでいる最も恐ろしい人類の性。
映画史に残る悪魔的傑作です。