キネマ・ジャングル

国・年代・ジャンルを問わず、心に響いた作品について呟いてみる映画ブログです。

早世の伝説ジャン・ヴィゴの遺作『アタラント号』

こんにちは、キーノです。

 

今回の作品は『アタラント号』

ジャン・ヴィゴ監督、1934年・フランス・87分

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Credit:Amazon.co.jp

 

映画史を変えた若者

ジャン・ヴィゴという名前を知ったのは、数年前、「世界の巨匠が選ぶオールタイム・ベスト10」を調べ漁っていたときでした。

 

「巨匠が認める作品だから間違いないだろう」と思い立ち、片っ端から観ていったのです。

 

すると、多くの監督に共通する作品がいくつか発見されました。

 

『市民ケーン』『七人の侍』『ファニーとアレクサンデル』…

 

そして、その中に『アタラント号』も含まれていたのです。

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ジャン・ヴィゴ監督/Credit:ja.wikipedia

聞きなれぬ題名を調べると、監督は「ジャン・ヴィゴ」というらしい...

 

これも知らない。

 

さらに調べると、ジャン・ヴィゴ監督の生没年は、1905年4月26日〜1934年10月5日とありました。

 

なんと、29歳の若さで亡くなっていたのです。

しかも『アタラント号』を世に生み出したその年に。

 

そして、名前の前には「夭折の天才」「映画史を変えた若者」というような形容句が必ずくっついていました。

 

話の面白さ<映像の語り方

早速、『アタラント号』を含む、計10本の仏名画がセットになった「フランス映画パーフェクトコレクション」なるものを入手し、観てみました。

 

すると意外にも、ストーリー自体は月並みなもので面白味に欠けていたのです。

 

あらすじ

アタラント号の船長ジャンは、ジュリエットという娘と結婚し、船旅に出る。

ジュリエットは、次第に船内の窮屈さに耐えられなくなり、こっそりパリの街へ抜け出す。

怒ったジャンは、彼女を置きざりに船を出し...

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Credit:youtube

しかし、本作を観て、とある確信に至りました。

 

その映画の偉大さは、話の面白さではなく、映像の語り方で決まると。

 

実際、脚本はヴィゴ本人の手によるものではなく、製作者のジャック=ルイ・ヌネーズ氏が、あえて平凡な脚本を与えたそう。

 

ヌネーズ氏は「つまらない脚本を前にした方が、彼の才能が発揮される」と確信していたと言います。

 

まさに、予感は的中しました。

 

水の中で目を開けると...

※以下、内容に触れています。

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Credit:Amazon.co.jp

劇中の前半で、ジュリエットがジャンにこんなセリフを言います。

 

「水の中で目を開けると、愛する人の姿が見えるのよ」

 

後半に、妻と別れて、もぬけの殻となったジャンは、船上から河に飛び込みます。

 

水をかき、妻を探すジャン。

 

すると、目の前に花嫁衣装に身を包み、天を舞うようなジュリエットが現れるのです。

 

なんとも美しい名場面。

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Credit:Amazon.co.jp

さらに夜、はなればなれの2人は、愛する人の肌恋しさに各々のベッドで身悶えします。

 

その時、郷愁感あふるる音楽とともに、水玉模様の影が2人に向かって射し込みます。

 

変な言い方ですが、時空をまたぎ超えて、お互いが直接触れ合っているかのようなのです。

 

これこそ、映画のマジックと呼ぶのでしょう。

 

 

ジャン・ヴィゴ監督は、その短い生涯の中で、

 

二本のドキュメンタリー(『ニースについて』23分、『水泳選手ジャン・タリス』9分)

二本の劇映画(『新学期・操行ゼロ』41分、『アタラント号』87分)

 

を残し、この世を去りました。

 

数少ない彼の作品は、トリュフォー監督やアキ・カウリスマキ監督など、後代の映画人に絶大な影響を与えたそう。

 

ジャン・ヴィゴがもう少し長く生きていたら、今ある映画史は大きく書き換えられていたのかもしれません。

 

純粋に、もっとたくさんの作品を観てみたかったです。

 

 

アタラント号 4Kレストア版 ジャン・ヴィゴ DVD

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