早世の伝説ジャン・ヴィゴの遺作『アタラント号』
こんにちは、キーノです。
今回の作品は『アタラント号』
ジャン・ヴィゴ監督、1934年・フランス・87分
映画史を変えた若者
ジャン・ヴィゴという名前を知ったのは、数年前、「世界の巨匠が選ぶオールタイム・ベスト10」を調べ漁っていたときでした。
「巨匠が認める作品だから間違いないだろう」と思い立ち、片っ端から観ていったのです。
すると、多くの監督に共通する作品がいくつか発見されました。
『市民ケーン』『七人の侍』『ファニーとアレクサンデル』…
そして、その中に『アタラント号』も含まれていたのです。
聞きなれぬ題名を調べると、監督は「ジャン・ヴィゴ」というらしい...
これも知らない。
さらに調べると、ジャン・ヴィゴ監督の生没年は、1905年4月26日〜1934年10月5日とありました。
なんと、29歳の若さで亡くなっていたのです。
しかも『アタラント号』を世に生み出したその年に。
そして、名前の前には「夭折の天才」や「映画史を変えた若者」というような形容句が必ずくっついていました。
話の面白さ<映像の語り方
早速、『アタラント号』を含む、計10本の仏名画がセットになった「フランス映画パーフェクトコレクション」なるものを入手し、観てみました。
すると意外にも、ストーリー自体は月並みなもので面白味に欠けていたのです。
あらすじ
アタラント号の船長ジャンは、ジュリエットという娘と結婚し、船旅に出る。
ジュリエットは、次第に船内の窮屈さに耐えられなくなり、こっそりパリの街へ抜け出す。
怒ったジャンは、彼女を置きざりに船を出し...
しかし、本作を観て、とある確信に至りました。
その映画の偉大さは、話の面白さではなく、映像の語り方で決まると。
実際、脚本はヴィゴ本人の手によるものではなく、製作者のジャック=ルイ・ヌネーズ氏が、あえて平凡な脚本を与えたそう。
ヌネーズ氏は「つまらない脚本を前にした方が、彼の才能が発揮される」と確信していたと言います。
まさに、予感は的中しました。
水の中で目を開けると...
※以下、内容に触れています。
劇中の前半で、ジュリエットがジャンにこんなセリフを言います。
「水の中で目を開けると、愛する人の姿が見えるのよ」
後半に、妻と別れて、もぬけの殻となったジャンは、船上から河に飛び込みます。
水をかき、妻を探すジャン。
すると、目の前に花嫁衣装に身を包み、天を舞うようなジュリエットが現れるのです。
なんとも美しい名場面。
さらに夜、はなればなれの2人は、愛する人の肌恋しさに各々のベッドで身悶えします。
その時、郷愁感あふるる音楽とともに、水玉模様の影が2人に向かって射し込みます。
変な言い方ですが、時空をまたぎ超えて、お互いが直接触れ合っているかのようなのです。
これこそ、映画のマジックと呼ぶのでしょう。
ジャン・ヴィゴ監督は、その短い生涯の中で、
二本のドキュメンタリー(『ニースについて』23分、『水泳選手ジャン・タリス』9分)
二本の劇映画(『新学期・操行ゼロ』41分、『アタラント号』87分)
を残し、この世を去りました。
数少ない彼の作品は、トリュフォー監督やアキ・カウリスマキ監督など、後代の映画人に絶大な影響を与えたそう。
ジャン・ヴィゴがもう少し長く生きていたら、今ある映画史は大きく書き換えられていたのかもしれません。
純粋に、もっとたくさんの作品を観てみたかったです。
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