「盗み」という魂の巡礼。傑作映画『スリ』
こんにちは、キーノです。
今回は、フランス映画の名作『スリ』!
巨匠ロベール・ブレッソン監督、1960年の作品です。
初鑑賞となりましたが、聞きしに勝るスゴさでした。
巧妙なスリの手口も去ることながら、スリ行為自体が主人公の心の変遷に重なるという見事さ。
これはスリの迷宮に陥った青年が、暗闇の外で待つ一人の女性の元にたどり着くまでを描いた「魂の巡礼」でありました。
あらすじ
貧乏学生のミシェルは出来心から競馬場にてスリを働く。その後、地下鉄でプロのスリを目撃し、その鮮やかな手口に心惹かれてしまう。 自宅でスリの練習を繰り返し、彼は次々と犯行を重ねていくことになる。
マジシャン並み!鮮やかな「スリ」の手口
本作の見所はやはり「スリ」のお手並みを目一杯拝見するところにあるでしょう。
主人公ミシェルが繰り広げるスリの冒険は大まかに3つのタームに分けられると思います。
- 独学でスリを実践する「ミシェル駆け出しの巻」
- スリのプロに技を伝授してもらう「ミシェル修行の巻」
- 仲間と組んで悪事を働きまくる「ミシェル・プロになるの巻」
ミシェル駆け出しの巻
とにかく心臓に悪いです。
ミシェルが競馬場にて初めてスリを働くシーン。彼は金持ちそうな中年女性に狙いを定めます。
競馬観戦をする女性の後ろに忍び寄って、肩から下がるポーチの留め金をジリジリと外していく。「イカン、絶対バレるよ!」と思うこと間違いなしです。
このときのミシェルの目がとても良いですね。
他の観客と同じように競馬を見ているのですが、明らかに意識はポーチに集中しています。
演じたマルタン・ラサールは素人の方なんですが、虚空を見つめる目線が上手でした。
ミシェル修行の巻
ある日、プロに見初められたミシェルは彼から数々の技を伝授してもらうことに。
ジャケットの前留めボタンはデコピンでパツンッと外すとか…
胸の内ポケットから抜き出した財布はそのまま取り出すのではなく、相手の上着内ですり落として、下から出てきた所を左手でキャッチするとか…
技を確かにするために、指をグニングニンに柔らかくする訓練とか…
他にも反射神経を鍛えるためにピンボールしまくるだとか…
「暇なんですか、あなたたちは?」と言いたくなりますが、それでも技のバリエーションが鬼のように増えていくミシェルを見るのは悔しいかな面白いんです。
ミシェル・プロになるの巻
ついにミシェルはプロとその仲間とタッグを組んで、スリまくり祭りを開催します。
ここはとにかく鮮やかなり!
駅のチケット売り場にて、列に並ぶミシェル。
前の女性がチケットの代金を払い終わり、ポーチを小脇に抱えようとしたその瞬間、素早くポーチを抜き取って、同じ重さ・厚みの雑誌を代わりに脇に挟ませるのです!
それから歩行者を助けるふりをして腕を掴み、同時に親指の細かな動きだけで腕時計を外して掠め取るというマジック。
いや〜、結構なお手前で。
スリ、魂の巡礼…
青年は自らの弱さに負けてスリという冒険を犯す。この冒険を経て、2つの魂が奇妙な巡り合わせをすることになる。
このようなモノローグが冒頭に登場します。
そう、本作はただ貧乏青年のスリを堪能するだけの話ではなく、スリという冒険を経てある女性と精神的にドッキングするまでを描いた感動作でもあるのです。
その女性は隣室に住む「ジャンヌ」。マリカ・グリーンという当時素人の役者さんが演じておりますが、後光がさすほど美しかったですね。
ブレッソン監督は職業俳優の感情的な表現を嫌って、ほとんどの作品に素人を採用していることで有名。
そのためセリフや感情的演技が極限まで削り取られています。代わりに、人物たちの行為がそのまま心情の変遷となることで、劇画的でないリアリティが生まれるのです。
貧乏青年の葛藤を「スリ」という行為に託して語る。そしてほつれた糸をかい潜るようにして、彼はスリの迷宮から抜け出していく。
そこでミシェルを待っていた光とは…
圧巻のラストでした。